Embalmer

納棺師|IdentityⅤ

トップノートは、霞がかかったように淡い気配が、しっとりと香り出します。ほのかな甘さを持つアニスの香りに、冷ややかなシトラスの香りが重なって、どことなくパウダリックで不透明な香りになっています。
無機質であまり温感のない香り立ちのため、彼のまとう、どこか死の気配にも似た冷たい空気を感じる印象です。

ここからミドルノートになると、スズランの香りが重なって、より繊細な空気感が広がっていくようになります。生者と関わることを苦手とし、他人の気配を敏感に感じ取る彼の「社交恐怖」の一面が顔を覗かせるイメージです。
それと同時に、清冽なシダーウッドの香りも広がり出します。納棺師として一つ一つの作業を厳密かつ丁寧に行う彼の、その繊細な化粧筆さばきが見えてくるようです。

ラストノートでは、純白のホワイトムスクの無彩色な香りが、ふわりと柔らかく広がります。混じりけのない空気を残しながらも、淡々とした空気に馴染むように溶け込んでゆき、最後に残り香をそっと漂わせるような雰囲気です。
人生の終点へ辿り着いた旅人に最大の尊敬を抱く彼の瞳を思わせる、汚れのない香りです。

全体的に淡々とした冷ややかな印象で、納棺師として死に向き合い続ける彼のまとう空気感を思わせる香りです。
霞がかった空気感にひそむ、繊細さ、孤独、そして儚さを感じさせるフレグランスです。