The Feaster

黄衣の王|IdentityⅤ

トップノートは、ほの暗い水気をたたえたオリスやマリンノートの香りが、ゆったりと漂うように重なります。
底になにが潜んでいるのか分からないような暗い海が側にある、湖景村の風景が見えてくる不透明な香り立ちです。その暗い湖底から蘇った黄衣の王の独特な気配を感じさせます。

ミドルノートになると、ゼラニウムの渋みがじわじわと広がるため、どこか底知れぬ存在が近くをうごめいているような、異様な空気感が辺りを覆い始めます。
そこへ、ヘリオトロープの香りが、よどんだ深淵からのぞく底光りのように怪し気に重なることによって、隠れていても突如として現れる触手に居場所を探り当てられてしまうような、力強く、ぞくりとした印象へと変化します。

ラストノートでは、ほのかな甘みと深みを持つラブダナムの香りが、余韻となって漂い続けます。
気付けば、名状しがたきものに心を奪われてしまっているような、甘くスモーキーで心落ち着く香りです。思わず「いあ いあ はすたあ」と言って、災難と苦痛の化身へ信仰を捧げたくなってしまうイメージです。

全体を通して、深く底知れない深海を思わせるような、水気を感じさせる香りとなっています。
この暗さのある香りが、心に染み込むような何とも言えない落ち着いた雰囲気へと大きく変化する、一度嗅ぐと忘れることのできない不思議なフレグランスです。