トップノートは、冴えわたるようなキレのある香りから始まります。張り詰めたようなハーブの香りで、どこかストイックな印象があり、彼の持つ知性を思わせます。誰よりも頭が切れ、タミヤにもチェスで負けることのないゼラという印象です。
そこにオゾンの淡々とした香りが重なり、とても温感の低い香りとなっています。冷酷無比な「廃墟の帝王」らしさと、圧倒的なカリスマ性を感じられるような、冷たい雰囲気です。光クラブのメンバーに冷静に指示を出すゼラの、鋭い視線が感じられるようです。

ですがミドルノートになると、少しだけグリーン系の渋みが混じり出します。さらにローズマリーの苦みも重なって、ひんやりと整った雰囲気が少しだけ崩れていくようなイメージとなります。自分を裏切る者がいると信じるゼラの、その焦心が透けて見えるようです。
タミヤを裏切者だと考えダフを殺すよう指示をし、忠誠心の高いニコですらライチ畑を燃やしたと思い込むような、疑心暗鬼となった彼の苦しみが感じられます。

ただラストノートになると、密やかな甘みを持つライチの香りが漂います。トップノートからミドルノートまでの冷たさに、かすかに甘さが足され響き合って、抗いがたい魅力を伝えます。光クラブの中心で皆から「ゼラ！ゼラ！」と讃えられる彼の姿が目に浮かぶようです。
さらにその奥で、ほんのりと淡いフローラルムスクが香ります。どことなく等身大の少年らしさも感じられる香りです。ライチ酒を作って母親から怒られたり、手袋に自身で黒い星を描いたりする、１３歳の少年らしいゼラの姿も垣間見えます。

ゼラのフレグランスは、最初から最後まで冷ややかで淡々としていて、知性と共に冷酷な雰囲気を物語るような香りです。
彼の鋭利な眼差しと、抗いがたい魅力を、ぜひ感じてみてください。

©古屋兎丸／太田出版