Hinagata Haruto
【トップノート】
涼やかなティーノートが静かに香り立ちます。
淡々とした香りで、土屋田の言いなりになっているフリをしている彼の様子を思わせます。
しかし、すぐにラベンダーの甘みが出てきて、じっとりとした湿り気が出てきます。
初対面の真経津が土屋田との関係の歪さに気づくほどの雛形の本性が、じわじわと垣間見えてくるイメージです。
【ミドルノート】
オゾンノートのすっきりとした香りが出てくることで、トップノートの湿り気が晴れていくように変化します。
「出来の悪い化けの皮」が剥がれた雛形、といったイメージで、土屋田を支配し“着色”していたのは彼だった、と気づかされるようです。
土屋田の「バカが現実に気づいた顔」を、時間も忘れて夢中でスケッチブックに描き起こす雛形の姿が思い浮かびます。
感情を色で感じながら真経津を追い詰めていく、ギャンブラーとしての強さが感じられる香りです。
【ラストノート】
ウッディ調の穏やかな香りと、レザーノートのほろ苦さが出てくることで、ミドルノートの晴れやかさから変化して仄暗い印象になります。
重たさが出てくるものの、どこか穏やかさすら感じられる香りです。
真経津に敗北し、これまで自分が嘲笑っていた「バカ」と同じ末路を辿ることになる雛形。
そうした彼の、敗北への転落が感じられる一方で、降参せずにこれまでのポリシーに従って自画像を描くという、潔さが伝わってきます。
【全体的に】
雛形春人のフレグランスは、ひっそりと静かな香りの奥に、本性が渦巻くような、足元をすくってくるような、じっとりとした質感が隠れているのが特徴です。
他人の自尊心を育て、自分好みの“絵”になるように演出してきた彼が、最後には自分も足をすくわれてしまうも潔く作品になるという、芸術家らしい生き様を感じてみてください。
©田中一行/集英社