硬質なハーバルグリーンの香りが思わせる、瞬（まばた）きひとつせずに見開かれた眼光の鋭さ。その視界が赤く染まるにつれて、マリンフローラルが濃く重くのしかかり、悪魔が如き威圧感が押し寄せる。
己の命を燃やさんばかりの力強さの果てに残ったのは、明日への続きを告げる朝日のような、穏やかで静かなモスの温もりだけ。
命令を果たし、居場所を守り続けるためのフレグランス。

荒野に生まれた若き野心にも似た、ジリジリと力強いレザーノート。それは頼もしさとロマンに溢（あふ）れ、続く者を鼓舞してやまないが、次第に滲（にじ）むフゼア調のまろい甘みが、胸に抱えた躊躇（ためら）いを物語る。
しかし一瞬の弱みをかき消すのは、ベチバーの深い渋み。それは家族をも生かす柱のように、重厚で温かな余韻を残している。
誰よりも前を行き、夢の果てへと道を創り出すフレグランス。

功を立てようと息巻く姿を思わせる、ビターシトラスの勢いのある香り。だが若さ故の酸味は次第に薄れ、ラベンダーのすっきりとした香りが、託された責任を果たす者に相応しい貫禄を与える。
芯の効いたカンファーツリーは、華はなくとも清々しく、その生き様を遥か天まで届けるように真っ直ぐに香り立つ。
己の器を磨き上げ、洗練されていくフレグランス。

触れようとするものを拒む、ピリリとした刺激をもつピンクペッパーの香り。角ばった輪郭をなだらかにするようなジャスミンの甘みが、閉ざされた心に家族という温もりを思い出させる。
サンダルウッドの重厚な香りは、微かな渋みを滲（にじ）ませながらも穏やかで、獣が如き猛々しさと共に、決して潰えぬ不器用なまでの人間味を伝えている。
自らの価値をその生き様で証明する、勇ましいフレグランス。

その場の空気を一瞬で明るく染め上げる、オレンジの朗らかな甘み。花の甘みが重なるにつれ、要（かなめ）を担うその背が大きくも遠く離れて見えてくる。
いつしか満ちるサンダルウッドの温もりが伝えているのは、姿が見えなくなろうとも忘れえぬあの笑顔。変わることなき晴れやかな香りが、変わらぬ優しさを伴って、生き抜く勇気を与えてくれる。
いつどんな時でもにこやかで、ほっとするような温かさをたたえたフレグランス。

清らかな甘みを帯びたウォータリーノートが形作るのは、黙々と手を動かす勤勉さと、そうして隠してきた切なる想い。そこに重なるカシミアノートが深みをもたらすと、やっとの思いで言葉にした祈りの強さを物語る。
深い哀しみに塞がる視界を晴らすように、清々しいホワイトシダーが吹き込むと、青年は輝きを取り戻した青い瞳で明日を見つめる。
次なる一歩を踏み出して、新たな日々を生きるためのフレグランス。