軽やかな足取りに合わせて柔らかなアルデハイドが香り立ち、瞬く間に辺りはゆるい空気感で満たされる。どこか癖のあるキャロットシードの香りが広がれば、無邪気な笑顔と共に振りまかれるのは災いの火の粉。
しかしベンゾインの不思議な甘みが流れ始めると、心をかき乱すだけだったはずのその気配は、何故か憎むことのできないお茶目な印象へと変わってゆく。
ゆるやかな印象と型破りな行動で、喧騒を巻き起こすフレグランス。

飾り気のないオゾンの香りが、真面目な青年の訪れを告げるように広がってゆく。ナチュラルなシトラスと共に清潔感のあるシャボンが凛と香り立つと、聞こえてくるのは、混乱のまま野放しにされた者を律する厳しい声。
しかしその冴えたツッコミの底には僅かにムスクの甘さが隠れており、いつしか彼は喧騒の渦にまた翻弄されてゆく。
奔放な上司を補佐する若者の、お人好しな姿を思わせるフレグランス。

草木豊かな山中を思わせるオークモスの自然体な空気に、乾いた渋みを持つ墨汁の香りが重なる。まだ見ぬ一句を求める道の中で、ふわりと立ち昇るシクラメンの甘さはどこか頼りなく、鬼弟子の存在に怯えるかのようにひっそりと漂っている。
しかしその奥底では、深みあるウッディが確かに眠っており、無二の傑作を生み出す才能を感じさせる。
襲いくる理不尽にもめげず、旅を続けるためのフレグランス。

常に冷静な青年の表情を思わせる、涼やかで端正なユーカリの香り。その傍にある硬質なパインニードルは、愉快な時を今か今かと待ち侘びるように、人知れず刃を研ぎ澄ませてゆく。
しかしその鋭さの裏側で静かに広がるヘリオトロープの僅かな甘さは、キレのある質感を残しながらも、微かに温情を宿している。
清々しいまでの辛辣さを持つ、クールで隙がないフレグランス。