己が命を秤に乗せて
次なる刺激を求めるソフトオリエンタルノート

みずみずしく軽やかな花の香りと共に芳醇な甘みがふわりと広がる。扉の向こうから現れたのは、にこやかに笑うギャンブラー。華やかなイランイランが指先の音に乗せて香り立ち、心躍るゲームが、今、始まった。
じわじわと迫るスモーキーなベンゾインがその場を呑み込むと、くゆる煙が見せた幻影に囚われた獲物は、割れた鏡の中に沈んでゆく。
悦楽への飽くなき欲望を満たす、不透明なフレグランス。

TOP:

Bergamot, Hydrangea, Rum

MIDDLE:

Poppy, Hibiscus, Ylang Ylang, Vanilla

LAST:

Labdanum, Benzoin, Olibanum, Musk

臆病を紐解いた先にあるもの
狡猾で高潔なるスパイシーフゼアノート

黄金の王冠にも似た輝きを放つ、シトラスのギラつきとスパイスの刺激。ローズの甘みが引き締まった空気を和らげれば、その小さな綻びに戦慄（わなな）く狐を見出すだろう。
しかしその目と合ったが最後、サンダルウッドの静けさの中、パチュリの硬く芯のある香りが柵（しがらみ）のように重なり、築かれた強固な要塞にはもう手が出せない。
死の淵で己に布石を打つ、気高きフレグランス。

TOP:

Nutmeg, Clove, Coriander, Bergamot, Lemon

MIDDLE:

Jasmine, Muguet, Rose

LAST:

Musk, Patchouly, Sandalwood

過ちも疑いもありえない
炯眼（けいがん）で射抜くハーバルフゼアノート

研ぎ澄まされたメスの刃を思わせる、タイムのシャープな香り。皮膚の内側を暴く切っ先が、ラベンダーの上質な甘みを伴って、滑らかに肌の上を走る。
開かれた腹の内に巣食う狂った世界を認めた時、静寂の手術室にオークモスの微かな渋みが零れ、横たわる患者には正当な処置が下される。
真偽を超えた正しさを手にした、怜悧なるフレグランス。

TOP:

Bergamot, Basil, Thyme

MIDDLE:

Lavender, Mint, Clary Sage, Geranium

LAST:

Musk, Sandalwood, Oakmoss

世界を彩る毒を味わいながら
無邪気に享楽に耽（ふけ）るダウナーフローラルノート

伏した目元を思わせる、涼やかなフレッシュグリーン。予期せぬ“魅せるもの”との邂逅に瞼（まぶた）を開けば、瞳の底光りにも似たマグノリアの濃厚な甘さが滲（にじ）み出す。
高揚するのは胸の内のみ。一度たりとも瞬きせず凝視するように、ホワイトムスクのゆったりとした残り香だけが漂い続ける。
裏の裏まで見抜くその双眸で、眼を釘付けにさせるフレグランス。

TOP:

Bergamot, Fresh Green

MIDDLE:

Muguet, Rose, Magnolia, Neroli

LAST:

Patchouly, Cumin, White Musk, Jasmine

隣人を愛し罪を憎んで
厳正なる裁きを下すローズシプレーノート

抑えるべくもなく威光を放つ、ベルガモットのギラつきとゼラニウムの苦味。悪を罰する天主（かみ）は、高貴なるローズの香りに浄化され、咎人を救うべく再び現世へと舞い戻る。
変わらぬ神格を放つ中、ウードの微かな渋みを伴った奥深い香りが、歪（いびつ）なる平穏を語り続ける。
慈愛と懲罰で善行を為す、神々しいフレグランス。

TOP:

Bergamot, Geranium

MIDDLE:

Centifolia Rose, Bulgarian Rose

LAST:

Oud, Oakmoss, Musk

それは無限の色が生み出す感情
苦渋を描ききるウッディアンバリーノート

繊細な筆運びにも似た、淡々としたティーノートと、絵具のようにじっとりと重たいラベンダーの香り。ヴェールの内から現れたのは、オゾンノートの涼やかさを纏（まと）う、稀代の最高傑作。
しかしレザーのほろ苦さに気づかされ、ウッディ調が緞帳（どんちょう）を下ろすと、傑作は遺作となって穏やかに眠りにつく。
望む表情へと着色する、密やかなるフレグランス。

TOP:

Bergamot, Tea Note, Lavender

MIDDLE:

Jasmine, Ozone Note

LAST:

Musk, Amber, Leather Note, Woody

ありきたりの日常をひっくり返す
まっすぐに歪んだクリーンフローラルノート

代わり映えのない日々に吹き抜ける、クリーンコットンのカジュアルな香り。何の変哲もない爽やかな景色を凝視すれば、深淵の向こう側からカサブランカの重たい甘みがじっとりと見つめてくる。
我に返ると、辺りに満ちるのは晴れやかなネロリ。その清々しさには、人知れず余韻を残す、僅かな刺激が紛れている。
凡庸というレールから逸脱して、微かなノイズを滲（にじ）ませるフレグランス。

TOP:

Clean Cotton, Leaf Note, Rhubarb

MIDDLE:

Casablanca, Magnolia, Jasmine

LAST:

Musk, Neroli, Amber, Tolu Balsam

のらりくらりと糸を操り
微笑みで翻弄するスマートフゼアノート

洗練された所作に相応しい、品格あるウッディ調の甘さと清らかなシトラス調の涼やかさ。艶やかな印象に拍車をかけるのは、思わず身を委ねたくなるほどに魅惑的なジャスミンの濃密な香り。
心地良い緩やかな気配に心を許せども、後に残るのはクマリンがもたらすパウダリックな質感のみ。それはまるで、探れども探れども読めない腹の内のよう。
静と柔を以て賭けに出る、エレガントなフレグランス。

TOP:

Grapefruit, Citrus Peel

MIDDLE:

White Cedar, Jasmine, Fresh Green

LAST:

Leather Note, Woody Amber, Coumarin, Vetiver

完璧を求めた果てに
満点の花を描くフローラルムスキーノート

慕う子らを受け止める、ホワイトリリーの淡く柔らかな香り。その優しい微笑みは一瞬にして悲痛なる形相へと変わり、シクラメンの不透明な香りが行く手を阻む。
誤りを糾弾せんばかりの濃く重い香りは、しかし、次第に落ち着いてゆく。西陽射す教室に満ちていたのは、トンカビーンズの穏やかな香りのみ。
教え子の幸せを願い、その巣立ちに寄り添うフレグランス。

TOP:

White Lily, Peach

MIDDLE:

Musk, Muguet, Cyclamen, Rose

LAST:

Sandalwood, Cedarwood, Tonka Beans, Amber

存在意義を証明するために
欲望を満たし続けるスパイシーウッディノート

力強いスパイスの香りは、かき集めた財が誇示する絶対の価値を。ドライなシダーウッドの骨太な香りは、孤独をものともしない足取りに見える、絶対の矜持を物語る。
悔恨の道と知ってなお前へと進めば、扉の先にはアガーウッドの厳かさを帯びたアンバーの穏やかな香りが満ちている。
激しさの奥に秘めた願いを思い出させてくれる、堅実なるフレグランス。

TOP:

Clove Bud, Black Pepper

MIDDLE:

Atlas Cedarwood, Cedarwood, Fougere

LAST:

Agarwood, Musk, Amber

諦観をその胸に抱きながら
確定未来に身を委ねるハーバルムスキーノート

清潔感あるシトラスグリーンの香りは、積み上げた叡智の山を。白樺の淡泊な香りは、この世に一切の期待を抱かない、胸の内の空虚を物語る。
悔恨の道と知ってなお振り返らず行けば、扉の先には温もりを帯びたホワイトムスクの柔らかな香りが満ちている。
たった一つの価値あるものと向き直らせてくれる、静かなるフレグランス。

TOP:

Pear, Lemon, Eucalyptus, Carnation

MIDDLE:

Heliotrope, White Birch, Cyclamen, Rose

LAST:

White Musk, Guaiacwood, Cedarwood