ふわりと柔らかなソープノートは、未だ何も持ち得ない真っ新な器のように、無垢で混じりけがない。どこか素朴なその香りは、やがて微かな渋みをもつゼラニウムと運命的な出会いを果たし、受け継がれし力をその身に宿してゆく。
夢中で駆け出した先に広がる、ベチバーの力強さ。正義を秘めたその香りは、全てを救（たす）け出すため、どこまでも真っ直ぐに立ち昇る。
心優しき英雄（ヒーロー）の生き様に、希望を見出すフレグランス。

重厚なカシアの奥に眠るクローブが、溜め込まれた起爆剤の如く弾け、爆発的な刺激を生み出す。瞬く間に場を支配した爆炎が残す煙（スモーク）は、狭まる視野と共に無意識に抱えてきた本音を覆ってしまう。
だが、やがて噴煙の隙間から差し込むシダーウッドが、葛藤を振り払うように晴れやかな印象をもたらす。徐々に鮮明になる視界の先に見据えるものは、勝利し救（たす）ける、ただ一つのみ。
揺るがぬ信念を胸に前を向くその気高さに、心打たれるフレグランス。

みずみずしいフルーツの甘みが生み出す、明るく屈託のない気配。そこに重なるコットンの軽やかさはまるで、麗（うら）らかな少女がその指先でもたらす、ふわりとした浮遊感のよう。
奥からゆったりと流れ出す、トンカビーンズのまろやかな香り。もたらされた深みは、救いを求める全ての人を取りこぼすまいと叫ぶ声明（メッセージ）を届けるように、空から地上へと舞い降りる。
たった一筋の涙をも見逃さずに笑顔へ変えて、未来へと手を引くためのフレグランス。

シトラスハーバルがもたらす疾走感はまるで、目の前を勢いよく吹き抜ける一迅の風のよう。一瞬で全てを置き去りにするほどの速さは、清々しいヒノキと混じり合い、留まることなく更に速度を上げてゆく。
いつしか重なるアンバーは、一直線にひた走るそのスピードを緩やかにする。それは同じ歩調で隣に並び立つ心地よさをもち、辺りをゆったりと揺蕩（たゆた）う。
憧れ追いかけたその名を受け継ぎ、迷子の手を力強く握るフレグランス。

凍てつく氷壁を思わせる、研ぎ澄まされたハーバル調の香り。その冷たさと相反するように重なるスパイスの熱がもたらすものは、その身に宿す憎しみの結晶か、更に高みを目指すための、秘めし炎の切り札か。
絡みつく血の運命（さだめ）を振り払い放つ炎と氷は、いつの日か失くした絆を引き合わせるように、オリバナムの心地よい温度と融（と）けあう。
手からこぼれ落ちた過去の道を辿（たど）り、なりたい自分を追い求めるフレグランス。

ポツポツとその身を濡らす雨水のような、水気を帯びたウォータリーノート。雨に打たれながらもしなやかに咲く睡蓮の花弁が思わせるのは、いかなる局面でも活路を見出す卓越したその力。
毅然（きぜん）とした気配の傍らで頬を伝う雫が水面に零れ落ちるも、いつしか漂うムスクが小さな身体を包み込む。それは、茨の道を行く仲間を受け止める、柔らかさと温もりで満ちている。
ポーカーフェイスに隠した繊細な想いが、友の心を震わせるフレグランス。